2012以降へ



飛騨沢から槍ヶ岳(2011.11.12)

 新穂高温泉からの槍ヶ岳単純往復のハイキング。この季節、日帰りが多くなるが、甲斐駒などの山域は、関西方面に転居してから遠くなった。甲信方面より飛越方面のほうが便利なので、新穂高からのコースとする。2ヶ月前に小槍(2011.9.16-9.17)のアプローチとして登っているので、記憶も鮮明、というより、やや退屈だが、冬装備の虫干しもしたい。穂先で氷がついていると懸垂下降が楽なので、ロープも省略したくない。8mmx30m(補助ロープだが短い懸垂はできる)に軽量化して持参。水場凍結のおそれがあるので、水も持参。もちろんアイゼン・ピッケルも必須なので、少し重荷(単独)。

 11/12(土) 4:30頃、新穂高の無料駐車場(駐車車両は10台ほど)。満月に近い月(月齢17ぐらい)で、歩きやすい。稜線の小屋は、すべて前週までに営業終了なので、登っている人は少なく、往路で3人ほどに会うだけ。まったくの無雪だが、槍平付近の木道に着霜して歩きにくい。飛騨乗越に近づき、標高2800mを超える頃から、薄雪を踏むようになる。11:30頃、稜線に到着(晴天で無風に近い絶好のコンディション)。大槍の穂先は、まだら状に雪がついている。槍ヶ岳山荘(もちろん営業していない)の前で、アイゼンのほか、念のためにハーネスも装着する。
 穂先は、その東側(北鎌尾根からの登路)が(ハシゴ等の整備がなく少し大きなギャップを乗り越えなければならないが)順層で階段登りであるのに対して、西側(槍ヶ岳山荘からの一般路)が逆層で手がかりに乏しいスラブ。そのため、一般路は、着雪すると、西側なので風に飛ばされ雪が薄いこともあって、少し難しくなる。その難しさは、靴底のフリクションに頼れる無雪のときには、ちょっと想像できない。今回は着氷がなく、軟雪だけだったが、筆者のレベルでは、仮に確保してもらっても、困難な場所が何箇所もあって、ハシゴの脚部などの人工物をつかんで、何とか登るありさまである。
 下山にも5h以上かかることを考えると、山頂で風景を楽しむ余裕はない。慎重に穂先から降りて(懸垂下降は無用であったが、少し緊張)、13:00頃、飛騨乗越から急いで往路を下る。
 飛騨沢上部では、槍ヶ岳山荘の冬季小屋泊まりらしい2人ほどとすれ違う。白出沢を渡り、林道に出る頃に日没。ライトをつけて林道を歩く。ゆっくりと歩いていると、奥穂方面から下山したらしい単独行者に追い抜かれる。18:00頃、真っ暗になってから、新穂高着。下山後に雨。(単独、ロープ8mmx30m他、アイゼン・ピッケル)



星穴岳(2011.11.5)

 夏装備で登れる山が限られてくるこの季節、群馬の妙義周辺は、便利なコース。星穴岳は、ちょうど2年前(2009.11.7)に初めて登って以来、昨秋は2度(1度はS氏同行)。今回は、所用で関東方面に足を伸ばすついでに、土曜日の半日で(単独)。射抜き穴(東側の小さいほうの風穴)の偵察を目標に、ロープ2本を用意する(しかし、これは未達・・後述)。

 11/5(土) 6:00過ぎに中之岳神社前の県営駐車場発。遊歩道(「関東ふれあいの道」らしい)から登山道に入り、ちょっとした岩場2箇所(トラロープがある3mほどの壁)を越えて、1hで西岳山頂に着く(ここでハーネス装着)。休んでいると、後続の5人ほどのパーティーが到着する。
 過去に3回も来ている場所だが、西岳山頂で方向を失い、しばらく右往左往。北西方向に伸びる尾根が正解。両側の切れ落ちたやせ尾根の上を、進めるだけ進んで、北側の樹林に懸垂下降(尾根北側にバンドがあるので、これが旧道らしいが、現在は通行困難)。その後も、記憶と異なる場面もあるが、1年ぶりで、記憶はあてにならない。といっても、行ける方向は限られる。地形を見ながら、方向感覚を働かせて、星穴岳基部まで、樹林帯の踏み跡をたどる。星穴岳基部からは、南壁のバンド(非常にリスキーだが、容易・・というより、足元に注意するだけ)を歩いて、最後に稜線に上がれば、実質的に終了。星穴岳頂稜の一角(東端)に着く。
 この場所にある支点が、射抜き穴(2つの風穴のうち、東側の小さいほう)への下降点。しかし、ここから懸垂で降りてしまうと、星穴岳頂稜を歩けなくなる。稜線の全部を縦走するためには、射抜き穴下降点より少し先から、南側の樹林に下る踏み跡をたどらなければならない(懸垂下降のほうがよい)。西岳山頂で会った5人ほどのパーティーは、星穴岳最高点に登り、そこからロープ2本をつないで、下降している。筆者は最高点を省略し(過去に登っている・・ややリスキー)、彼らを追うように、樹林に下る。その先、稜線に登り返すと、むすび穴(西側の大きいほうの風穴)への下降点。しばらく、星穴新道合流点の付近を偵察していると、10:00頃になる。昼過ぎには終わりたいので(当日中に関西方面まで運転して帰らなければならない)、射抜き穴の偵察をあきらめて、むすび穴に降りる。
 下山は、樹林を適当に下ると、車道に出ることができる。しかし、まっすぐに車道を目指すと、稜線を縦走した距離だけ、車道を歩かなければならない。これを避けたいので、できるだけ下らないようにして、トラバースしていると、往路の登山道(遊歩道からの分岐点より20mほど上で、もちろん神社の階段よりずっと上)に合流。紅葉シーズンは過ぎているが、遊歩道まで下ると、たくさんの人がいる。神社まで歩いて、正午ごろに終了する。(単独、ロープ9mmx50m2本他)



明神岳東稜(2011.10.29-10.30)

 10月初旬の3連休(10.8-10.10)に御在所岳の撤退ハイキング(前尾根は厳しい)。そのあと、2週ほど続けて、週末ごとに気圧の谷でお休み。この週は、ようやく土曜日だけは晴れそうなので、上高地の明神岳東稜。2009年のGW以来(2009.5.2-5.3)、2年半ぶりの訪問。

 10/29(土) 5:00過ぎに上高地発。6:30頃に、明神の養魚場跡から下宮川谷の踏み跡に入る。ひょうたん池へのハイキングが流行しているのか、宮川谷のガレはよく踏まれている。以前になかった派手なマーキングもある。また、この時期なのでヤブも不快でない。9:30頃、長七のコル(ひょうたん池)に着く。ここまで無雪。
 東稜の登りになっても、岩陰に融け残ったわずかな雪があるだけで、まったくの夏山状態。ただ、中途半端な季節なので、アイゼンも水(稜線泊を想定して3リットル以上)も省略できず、荷物がことのほか重い(たぶん30kgを超えている)。転倒すると起き上がるのも苦労する。周囲に誰もいないバリエーションルートで、通信手段を持たない単独行。足の骨折など、歩行能力を損なう事故があると、致命的な結果になる。滑りやすい草付きの急斜面、バランスを崩さないように、慎重に登る(残雪期の雪面歩きのほうが快適)。
 やがて、頂上直下の岩場。下端を固定したロープを伸ばしながら、空身で登る。岩が乾いていて、ビブラム底の登山靴でも、フリクションが効くので、容易に登れる。20mほど上の確保支点にロープ上端を固定し、ランニングを回収しながら懸垂で降り、荷物を担いでアセンダーを使って登り返して終了。あとは歩くだけ、14:00頃に山頂(主峰頂上)。ここまで快晴。
 山頂ではテント2張りほど可。この先、確実なビバークサイトは、岳沢か上高地しかない。日没まで3hだが、その時間では、いずれにも着かない(積雪期なら雪を切り出せばテントを使えるが、この時期、岳沢の手前で得られる平坦地は、前穂山頂ぐらいしかない)。しかも、岳沢小屋は営業を終えているので、水も入手できないはず。早い時刻なので、ちょっと迷ったが、結局、明神岳山頂でのビバークを決める。

 10/30(日) 早朝にテントをたたく雨音。強くはないが、雪混じりの小雨が降っている。テントをたたんで、前穂の山頂に登り返して、重太郎新道からの下山とする。ここまで誰にも会わなかったが、紀美子平では、奥穂から下山中の数人に会う(ひとりは、明神館の従業員とのこと)。下山中にアイゼンを使うことはなかったが、岳沢小屋付近から、稜線を見上げると、白くなっている。昼過ぎに上高地着。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・アイスバイル)



中御所谷西横川(2011.10.2)

 前週(9.25)は、錫杖岳敗退。この週は、気を取り直して西横川。木曽駒ケ岳の伊那前岳西側を源流とする沢。初心者向けらしい。買ったばかりのアクアステルスの沢靴のためし履きをかねて、日曜日の半日、単独で偵察(初見)。

 10/2(日) 4:30頃、駒ヶ根の菅の台駐車場に駐車。大盛況ですでにバス停には行列ができている。そんなに急ぐ必要もない行程だが、支度をしてバス停に並ぶ。始発は5:12らしいが、5時過ぎから「臨時バス」が次々に出る。その何台目かに押し込まれるようにして、6:00前にしらび平のロープウェイ乗り場。バスを降りると、整理の係員がロープウェイ改札待ちの列に並ばせようとするが、これを無視して、戻り方向に車道を歩き(200mほど)、最初の橋(表示は「中御所谷」)から入渓する。
 すぐに大きな堰堤(左から巻く)。下部は流木などが多く、荒れている。最後の堰堤のすぐ先で二俣(ほぼ1:1)。右は東横川。左に進む。西横川は、開けた明るい沢相で、細い水流が広い沢の中央部にあるだけ。多くの滝では、水流の左右の乾いた岩を登ることができる(左右の草付き斜面も傾斜が強いので、滝を完全に巻くことは困難)。花崗岩でフリクションはよく効く。しかし、ホールドに乏しく、見た目よりは難しい。・・といっても、少なくとも単独では、ロープを使うような場所はない。
 やがて、30mの滝(水流を避けて、左よりを登れる)。その先で二俣(1:2で右が本流)。右に進む。この先は、10mクラスの滝が連続する。さらに二俣(左へ)。その上で水涸れ。登りにくい草付きの急斜面を進むと、長谷部新道に出る(10:00過ぎ、遡行開始から約4h)。遡行開始からここまで、誰にも会わない。
 あとは、千畳敷まで歩くだけ(沢靴なので、ピークハントは考慮外)。紅葉は終わっていると思うが、千畳敷に近づくと、たくさんの人。ロープウェイに乗れるか不安になる。ロープウェイは数分間隔で運転。次々に観光客を運び上げてくるが、午前中から下山する登山者は少ないらしい。30分ほど並んで(整理券は発行していなかった)、ロープウェイに乗り、しらび平へ。バスで菅の台の駐車場に戻り、午後の早い時刻に終了。(単独、ロープ9mmx50m他)



小槍(2011.9.16-9.17)

 筆者が最初に小槍に登ったのは2年前(2009.6.27-6.28)。フリークライミング全盛の時代に、安易すぎて忘れられた存在だったのか、ほとんど登られていなかったが、昨年からは槍ヶ岳山荘(と提携したガイド)がガイドツアーを募集するなど、ややポピュラーになりつつある(といっても、募集ガイドツアーなどのイベントでもなければ、休日でも1日1パーティー程度と思われる)。支点も適当に維持されてきたが、1ピッチで登るパーティーが多いのか、中段の支点のスリングがなくなっている(ルート・アプローチは2年前の記事参照)。
 今回の同行者は、九州在住で30歳台。槍・穂高の山域ははじめて、ハーネスの装着もはじめて、山小屋もはじめて・・・らしいが、渓流釣りなどの経験豊富とのこと。岩に慣れていれば、クライミングは筆者より上手かもしれない。1年前に筆者が声をかけた計画だが、仕事の都合もあって、3連休を1日フライングして、ようやく実現する。[→同行者の報告(PDF、写真入り)]、[→写真(大槍から)]

 9/16(金) 4:30新穂高発、右俣林道を歩く(月明かり・・晴天らしい)。5:00頃に明るくなる。小屋泊りの予定なのでテントなし。ロープ1本で、支点状況も既知なのでハンマーなし。装備簡略でザックが軽い。槍平経由で、飛騨沢を登る。稜線に近づくと、同行者のペースが落ちるが、11:30槍ヶ岳山荘着(この時刻には晴天)。
 少し休憩してから、ハーネスを装着して、小屋のヘリポートから小槍の取り付きへ。曾孫槍とのコルで、靴をフラットソールに履き替えて、ロープを出す。前週の前穂北尾根と同様に、同行者によるビレーが期待できないので、ロープ下端を固定して、手元でロープを繰り出しながら登り、終了点で同行者をビレーするシステムで登る。ロープの繰り出しが少しメンドウで時間がかかる(筆者より、フォローの同行者のほうが速い)。2ピッチで小槍山頂。
 アルペン踊りは省略して、下降。同行者は、懸垂下降もはじめてとのことなので、下降器をセットしてから、筆者が先に。ロープ1本なので、2回に分けて降りる(中段の支点には懸垂用に捨て縄を残置)。靴を履き替え、槍ヶ岳山荘まで戻って終了する(14:00過ぎ)。小槍では他のパーティーなし。
 この山域初見の同行者がいるので、槍ヶ岳(大槍)にも登るが、この時刻から、雲が多くなる。そして、夜に小雨。こんなとき、(テントでなく)小屋泊りは楽だが、展望のないのが少し残念。
 「初心者」を自称する同行者は優秀。小槍では、筆者が苦労してセットしたお助けスリングを、余裕で回収。そして、大槍では、山頂直下の連続ハシゴを使わずに登っている(筆者がけしかけたが・・)。

 9/17(土) 稜線ハイキングの半日コースも考えていたが、朝から小雨と少し強い風。展望が期待できないので、稜線に長居無用。朝食抜きで、4:40頃に小屋を出発して、往路を戻る。10:00過ぎに新穂高着。お疲れ様でした。(2人、ロープ9mmx50m他)



前穂北尾根(2011.9.10-9.11)

 筆者にとっては、6月度(2011.6.4-6.5)に続いて、本年2度目の前穂北尾根。今回の同行者は、79才というS氏。前穂北尾根は初見らしいので、慎重モード。

 9/10(土) 5:00上高地発。横尾で30分ほど休憩し、10:30頃に涸沢着。天候は、午後から下り坂との予報だが、この時刻は晴天で暑い。天候を考えると、この日のうちに北尾根を抜けたほうが成功率が高いはずだが、同行者は体力的に無理とのこと。5・6のコルでの沈没を決める。涸沢ヒュッテの売店で、買い食いの昼食。給水のあと、5・6のコルまで歩き、テントを広げる。夕刻から曇りでやや強い風(この日、5・6のコルは筆者らのテントだけ)。

 9/11(日) やや雲が多いが、風の心配はなさそう。5:00頃、テントを片付けようとしていると、ガイドパーティーらしい4人が、涸沢側から登ってくる。彼らが見えなくなるまで待ち、5:30過ぎに出発する。
 5峰は涸沢側の踏み跡を歩くだけだが、4峰はやや傾斜が強い(手を使う程度)。中下段は、涸沢側の斜面を登ることが多い。これが最も安易なラインだが、浮石だらけのガレと土の斜面なので、滑落したときにコンテで止められない。少し高度感はあるが、稜線越しに登る(稜線なら、滑落と反対方向に飛び込めば、確実に止められる)。4峰上部、奥又側を適当に登れるが、ボルダリングは避けたいので、少し右往左往。4峰頂上に出ると、朝に先行した4人パーティーが3峰を登っているのが見える。2ピッチほど間隔をとって、3峰に取り付く。
 3峰は過去に登ったライン。同行者によるビレーは期待できないので、やや変則のシステムとする。同行者がセルフビレーを取った支点を開始点として、これにロープの下端を固定して、ソロのシステムと同様に、手元でロープを繰り出しながら登る。終了点では、通常のフォローのビレーとして、同行者をビレー。同行者がロープ下端の固定を外し、ランニングを回収するので、ソロと違って、登り返しの必要はない。
 1P目は奥又側へのトラバースから土斜面の直上、2P目はチムニーの左側(チムニーの天井石直下でピッチを切る)。3P目の凹角はテント装備一式の重荷で自信がなかったので、空身で登り荷揚げ。これで実質的に終了。コンテで少し歩いてから、最後のギャップも空身で登って荷揚げ。
 3峰の上に出ると、前穂山頂が間近に。2峰から懸垂で降りて、ロープをたたむ。10:00過ぎに前穂山頂着。
 稜線の高さでは、ガスが流れ、北尾根全体は見えない。それでも、しばらく休憩していると、ガスの切れ間から、後続パーティーのトップが、2峰をクライムダウンしているのが見える。記念写真大会(同行者がいるにもかかわらず、ザックを下ろすのも省略し、ここまで写真は数枚だけ・・)。
 下山は重太郎新道経由。途中、岳沢小屋で大休止し、6月度にお世話になったN氏にあいさつ。15:30頃、上高地に着く。岩が乾いていたので、前回よりずっと易しい。(2人、テント装備、ロープ9mmx50m他)



八右衛門沢から霞沢岳(2011.8.27-8.28)

 上高地の霞沢岳。このルートは、残雪期にたどったことがある(2009.5.23-5.24)。そのときは安易な雪渓歩きだが、無雪期のほうが面倒そう。単独で偵察。

 8/27(土) 5:00帝国ホテル前の八右衛門橋からスタート。しばらく左岸の林道を歩く。堰堤工事中らしく、プレハブの詰所と重機がある(この時刻には無人)。八右衛門沢の下部には、堰堤が何個か。それぞれに土石流検知用のワイヤーが張られているので、これを切らないように注意して堰堤を乗り越える。ここまでは作業道らしく、何箇所かに赤布のマーキング。この付近までは、わずかな水流もある。
 この先、傾斜が強くなって、やや難しい涸れ滝も出てくる。左岸から巻くと、猛烈なブッシュや通過にロープを要するガレ場などがあって、時間がかかる(可能なら直登のほうが速い)。小型家屋ほどのチョックストーンを持つ滝など、どう考えても登れると思えない場所も、巻き道に踏み跡はない。堰堤から上は、ゴミなどの遺留品もマーキングもなく、全般的に、人跡は非常に薄い。
 やがて、2415峰の基部で、沢は右に屈曲。この先は、相変わらず傾斜は強いが、岩がやや小さくなって、ほとんどの滝を直登できるようになる。その先の二俣は、K2直下に通じているはずの右俣へ。ここまで、やや時間がかかっているが(二俣で11:00頃)、ほぼ順調。
 稜線に近づくと、ガスに巻かれて、ルートの見極めが難しくなる。ブッシュを避けて、ガレ沢をたどっていると、ガレの供給源となっている岩壁で行き詰る。ブッシュに突入するしかないが、ウルシと矮小化したダケカンバでほとんど進めない。ガスが少し晴れたタイミングで、稜線の最低鞍部を見極め、猛烈なブッシュの中をトラバース気味に登る。ツメは身長ほどのハイマツのブッシュで、これもほとんど進めない。結局、稜線直下のブッシュだけで3hほどもかかり、15:00過ぎに、ようやく稜線縦走路(ほぼK2のピーク)に飛び出す。
 往路を戻ると、ブッシュの中で日没になるはず。徳本峠を経由すると、当日中の上高地脱出は不可能だが、ほかに選択肢はない。とりあえず空身で霞沢岳のピークを往復してから(15分とかからない)、徳本峠に向かう。残雪期に歩いたときは、雪の処理がメンドウだったが、今回は不快な水たまりだらけの登山道を歩くだけ。徳本峠からの下りで日没。このまま沢渡まで歩いてもよいと考えていたが、上高地に近づくにつれて、疲れが出てくる。21:00前に小梨平でテント。

 8/28(日) 小梨平から上高地のバスターミナルまで歩くだけ。6:50の沢渡行き始発バスの客は筆者だけ。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他)



梓川一ノ俣谷(2011.8.13-8.14)

 上高地を流れる梓川の支流、横尾の少し先で出会う一ノ俣谷。滝は、地形図に名前が記載されたものだけでも、二段の滝、七段の滝、一ノ俣の滝のほか、側壁に、山田の滝、常念の滝がかかっている変化にとんだ谷らしい。往年は、この谷から常念乗越への登山道があった。この旧道も積極的に利用させてもらうつもりなので、沢登りというより、旧道探索のハイキングである(-->旧道)。

 8/13(土) 5:00上高地発、横尾から槍沢道。8:20頃、一ノ俣の橋を渡ったところで、沢タビに履き替えて入渓する。この数日、雨がないらしい。水量は少なく、どこでも容易に渡渉できる程度。水流の中を適当に歩く。
 しばらく進むと、流れが右に屈曲し、その奥から10mほどの滝。七段の滝の下段らしい(二段の滝は見当たらない)。左岸の壁の10mほどの高さに鉄杭が打ってあり、朽ちた木材がある。角材を渡した桟道の残骸らしい。桟道を通過できるとは思えないが、弱点をさがすしかない。手前のザレたルンゼから登ってみると、上部にトラロープがあるので、使われていたルートらしい(ロープは古くないが、固定状況不明なので、触る気にはならない)。桟道跡より5mほど上まで登ると、潅木のあるテラス。テラスの反対側に懸垂で降りて、桟道の先のガレ沢(幅数メートルの崩壊地状)に出る。旧道は、ガレ沢で途切れているが、その先で、岩のバンドをトラバースしているので、これをたどる(歩ける)。ごく最近(せいぜい数ヶ月以内)に付けられたらしい小さなビニールテープのマーキングが何箇所かある。この先も、狭いゴルジュ状の七段の滝の上段を見下ろしながら、ガレ沢と岩のバンド(リングボルトに設置されたトラロープや針金、錆びたクサリもある)を通過する。
 七段の滝の高巻きが終わると、いったん川床に降りるが、すぐに一ノ俣の滝で、これも左岸の旧道から高巻き。一ノ俣の滝の落ち口にワイヤーロープと木材の残骸。ここに橋がかかっていたらしいが、この日の水量なら、橋がなくても渡渉できる。
 この先、一ノ俣谷は、中山(一ノ俣谷と二ノ俣谷を分ける顕著なピーク)を回り込むように、ゆるやかに左に屈曲しながら続いている。一ノ俣の滝の上は、左岸(常念側)が絶壁でも、右岸(中山側)が草つき斜面。旧道は、右岸の草つき斜面の中を通っているらしく、小さな滝を右岸から巻いていると、旧道の道型に出会う。オレンジ色のペンキのマーキングも残っている。しかし、廃道になって久しいので、ブッシュ(草だけでなく太い潅木も)がひどい。さらに、随所にある崩壊地で寸断されているので、旧道をたどるより、水流の中を歩いたほうがずっと速い(淵で腰まで)。やがて、左岸の側壁に、山田の滝と常念の滝が見られる。これらは、側壁にかかる滝なので、登る必要はなく、通り過ぎるだけ。
 中山峠(東天井から中山に続く尾根の鞍部)から落ちる沢(樹木に覆われた涸れ沢)を右岸に見送ると、水流が減少。左岸も樹林になって、単調な河原歩きになる(この付近の旧道は不明・・どこでも歩ける緩傾斜の樹林や草つきなので、道型が明瞭でない)。谷が右に屈曲し始めると、やがて二俣。左俣が傾斜が緩く本流に見えるが、常念乗越に続くのは右俣らしい。右俣は、川幅が狭くなり、両岸からせり出した樹木がうるさくなる。左手の枝沢に常念小屋の取水用らしいドラム缶を見ると、すぐに水涸れ。樹林帯の踏み跡を30分も登ると、常念小屋の裏に飛び出す(16:30)。沢では誰にも会わなかったが、小屋のテント場は満杯に近い。

 8/14(日) 下山だけ・・だが、下山路を未考慮。考えてみると、常念乗越から上高地に戻るには、常念・蝶の山頂を越えるのが最短(往路の一ノ俣谷を下るより早いはず)。6:00、テントを片付けて出発。軽装なら楽しい稜線ハイキングだが、ザックの中身はロープのほか、大量のカラビナやハンマー、ヘルメット、ぬれた沢タビなど、およそ縦走路に無用の雑貨ばかり(30kg近いはず)。快晴で槍・穂高の稜線が見えるが、荷物が肩に食い込むので、急ぐだけ。常念・蝶の間の沢を下る誘惑もあるが、前日に見た山田の滝などの上に出るはずで、これは論外。長塀尾根・徳沢経由で、16:00頃に上高地着。午後に軽い雨。下山のほうが疲れた。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他)



鉄砲石川から石鎚山(2011.8.7)

 甲信越の天候が不安定とのことなので、四国方面に向かい、石鎚山の面河谷(仁淀川本流)のシャワークライムを目指すが(単独)、この方面も前日の夕立で増水して、面河谷は川幅いっぱいの濁流。筆者のレベルでは、渡渉も困難に思えて、あっさり敗退を決め、その支流の鉄砲石川に転進する(もちろん初見)。

 8/7(日) 5:00頃、面河渓遊歩道の駐車場をスタート、キャンプ場の奥に続く林道を30分ほど歩き、その終点で沢タビに履き替える。鉄砲石川は、幅20mほどの川幅いっぱに流れる美しい滑床。コケ(水面下では育たない)の上まで水をかぶっているので、水量は平水時より多いはず。水流に足をとられるが、開けた地形なので、行き詰ったら高巻きもできそう。何とかなると判断し、入渓する。
 どうせ遡行図もない沢の偵察なので、本流を忠実にたどる必要もない。というより、どれが本流かの判別も困難。適当な枝沢をたどり、楽しそうな滝にでも当たればラッキーと考えるしかない。2箇所の分岐で左・左と進んでいると、傾斜が急になるとともに、水量が減少する。5mほどの滝は多いが、花崗岩質の岩で、沢タビのフェルト底でフリクション良好。ほとんど水流の中央を登れる(ロープ1回だけ)。地形図(1/25000)によると、鉄砲石川の本流には、上部に3個ほど堰堤があるらしいが、筆者が登ったのは本流ではなく、それらしいものに出会わないまま、3hほどで源流の雰囲気になり、樹林帯に囲まれた急斜面のササ原で水涸れ。ここまでは快適であったが、この先はササと低木のブッシュで歩きにくく、水涸れから稜線まで1h以上かかる。
 稜線にも踏み跡はない。地形図から判断すると、二ノ森の少し西側から南方向、五代ヶ森に落ちる尾根の上らしい。場所を正確に同定するのも困難だが、激ヤブのピークを2つ、そして小さな岩峰つきのピーク(たぶん地形図の1749峰)を越えると、相変わらず踏み跡はないが、ササ尾根で歩きやすくなる。やがて、堂ヶ森からの縦走路を合わせると、すぐに二ノ森(山頂プレートがある)。ここからは、登山道をたどるだけ。石鎚山頂らしいピークは、ガスで隠されているが、その先に石鎚スカイラインの車道と土小屋が見える。稜線のブッシュで非常に時間がかかり、ここで14:00を過ぎている。
 石鎚山頂の手前から、面河に戻る分岐があるが、とりあえず石鎚の山頂へ・・そして、時間のかかるのは承知だが、日没後にも安全に下山できるルートを考えると、石鎚スカイラインの車道に限るので、土小屋へ(17:00頃)。ご来光の滝や、面河谷への下降ルートなどを観察しながら車道を散歩していると、ちょうど中間部で20:00・・日没だが、上弦の半月なので、トンネル以外はランプ不要で歩ける。5キロポスト付近で、ゲート閉鎖後の見回りのクルマに乗せてもらって、スカイライン入り口のゲートまで(1hほど節約できる)。その後、面河渓の駐車場まで、歩いて終了(21:00頃)。トータルで16hコースとなる。(単独、ロープ9mmx50m他)



コブ尾根(2011.7.23-7.24)

 穂高主稜線のコブ尾根の頭から派生し、岳沢に伸びている尾根。2年前に、奥穂南稜を登ったときから(2009.6.6-6.7)、気になっていたので、2人パーティーで様子を見に行く(2人とも初見)。

 7/23(土) 5:00過ぎに上高地をスタート、岳沢小屋を経由して、コブ沢(岳沢小屋から天狗沢に向かって1本目の沢で、この沢の右側がコブ尾根、左側が畳岩尾根)に入る。コブ沢は、入り口から雪渓がつながっている。この雪渓を300mほど進むと、右側のコブ尾根から小さな沢(コブ沢から見るとその枝沢)が出会う。これがコブ尾根へのアプローチである(その最下部はガレまじりの枯滝状)。この季節らしく、コブ沢の雪渓と岩の間に大きな隙間(いわゆるラントクルフト)が開いている。少し離れたところから岩に飛び移り、時間をかけてザレた岩の上を移動し、目的の沢に入る。その後、この沢を1hほど登って(傾斜がゆるく快適、随所で水が取れる)、コブ尾根の上(尾根中間部のコル)に出る(9:00頃か)。
 尾根は急傾斜。ハイマツをつかみながら、ザレた斜面を登る。登りついた場所がマイナーピーク。ここから見るコブ本体は、槍の穂先(大槍)より立派そう。マイナーピークの反対側は、5mほど垂直に切れ落ちている。下り口にある1mほどの岩が動くが、階段状の大きな手がかりはある。空身ならクライムダウンだろうが、重荷なので迷わずに懸垂下降。
 ここから、コブ本体の登り。草つきまじり斜面の薄い踏み跡をたどる。少し登ると、ロープを欲しくなるほどの傾斜になるが、難しくはない。やがて、積み重なった大岩に囲まれたテラスに出る。右側の垂壁には、ピトンの連打があって、これが目立つ。しかし、よく探せば、テラスを囲む岩の随所に残置がある。前進用のプロテクションだけでなく(つながっていない)、撤退時の懸垂用などもありそう。
 筆者は、ここでフラットソールに履き替え、やや左よりのラインを試したが、これは失敗(撤退のためにピトンを打つ・・面目ない)。仕切り直して、ほぼ中央に斜上しているクラックから取り付くことに決める。手首まで入るクラックで、ガバとして使え、フットジャムもできるので、難しくはない。しかし、上体を傾けると背中からバランスをくずす重荷なので、斜めクラックは使いにくい。仕方がないので、空身で登り、ロープで荷揚げ。さらに、ロープを固定して懸垂で降り、・・で、わずか7mほどの段差を乗り越えるだけだが、時間がかかる。この上も急傾斜だが、階段状の登りらしいので、通常のリード・フォローのシステムで、荷物をかついだまま、2ピッチほど登る。
 コブは前後に細長い頂部。左右はスパッと切れていて、強烈な高度感。天狗沢の対岸に西穂への稜線、扇沢(残雪期には奥穂山頂から岳沢への滑降コース)の対岸に奥穂南稜と吊尾根が見える絶景。この頂部を先端まで歩いてから、反対側に懸垂で降りることになる。しかし、懸垂支点まで進むにも、段差の大きいクライムダウンがあって、重荷ならビレーが必要に思える。15:00を過ぎているので、コブの山頂でビバークを決める。幅1.5mほどの平坦地があるので、テントの底面全部を乗せることはできないが、上体を横にすることはできる。近くの岩からロープを伸ばして、ビレーを取りながら寝る(少し風があるが快晴)。

 7/24(日) 遅い時刻まで寝て、徹夜運転の睡眠不足を解消。出発は8:00頃になる。捨て縄で支点を作り、ロープを使いながら懸垂支点へ。懸垂支点は、3ヶ所あるが、ロープ1本なので、最下段の支点を使う(そこから20mほどの懸垂下降)。
 コブの次のピークも、ちょっとロープを欲しくなるほどの急斜面。このピークを越えると、主稜線に近いためか、尾根の幅も広がり、高度感もなく歩けるようになる。やがて、コブ尾根の頭に到着、奥穂・西穂間の稜線縦走路に飛び出す(10:30頃)。
 岳沢小屋からここまで、他のパーティーを見なかったが、稜線縦走路はさすがに人気コース。縦走者のほか、ジャンダルム飛騨尾根を登っているパーティーも見える。筆者らもザックを放り出して、ロープだけ持ってジャンダルムに登り、直登ルートを懸垂で降り・・と遊んだあと、天狗沢から下山。岳沢小屋のテラスで休憩して、ゆっくり上高地まで歩く(曇り)。(2人、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・アイスバイル)



八ツ峰6峰Cフェース(2011.7.15-7.17)

 剣岳の八ツ峰側壁。2年前には人口過剰のため、Aフェースに転進(2009.8.8-8.10)したので、今回はリベンジ・・というわけでもないが(たぶんAフェースよりやさしい)、この春に関西方面に転居し、この山域が便利になったので、久々にアルペンルートの富山側から(単独)。

 7/15(金) 連休を半日フライングして、午後の遅い時刻に立山駅に着く。空席の目立つケーブルカーとバスで室堂へ。19:30頃に剣沢のテントサイト。日没後のテント設営だが、すぐに満月が出て明るくなる。剣沢のテントサイトは15張りぐらいで、まだまだ余裕がある。

 7/16(土) 2:30起床とするが、周囲のテントは寝静まっている。ストーブなしの軽量化装備、菓子パンを食べるだけで出発準備が完了する。30分ほど周囲の様子をうかがっていたが、行動するしかない。長次郎谷を目指して、剣沢を下る。前後に誰もいないが、長次郎谷に入ると、たぶん真砂沢を出発したらしい先行パーティーに会う。
 夏の早い時期なので雪は多い。沢底は雪渓状態良好(ほとんどクレバスなし)。快適なアイゼン歩きで、出発してから約3hで八ツ峰6峰の直下に達する。しかし、急傾斜の場所は随所で雪渓が切れている。たとえば、5・6のコルまで雪渓に覆われているが、何本もの深いクレバスで分断されている。もちろん、Cフェースなどの岩体と雪渓の間にも、隙間(いわゆるラントクルフト)が開き、雪渓上の通過も、雪渓上から岩へのアプローチも不可能。岩場へのアプローチは、5mほどの深さのクレバス底部に降りて、岩体と雪との隙間を、チムニー登りの要領で登るしかない(核心だった)。
 岩場に取り付いた場所は、(本来の取り付きが雪の下なので)1P目の途中(たぶん、剣稜会ルートより左側)。傾斜した岩と雪の上で、少し苦労して、アイゼンを外し、フラットソールに履き替える。大した傾斜でもないので(靴を履き替えられるぐらい!)、ロープを出さずに(フリーソロで)登り、1P目の終了点でセルフビレー。ようやく安定する(その間、先行パーティーは上に・・この先、前後に誰もいない)。
 2P目以降はロープを使うが、ビレー点のレッジ上が急なだけで、その先は相変わらず緩傾斜。適当に登っていると、10m以上も残置が見つからず、不安になることもあるが、これは、どこでも登れるという証左だろう。5P目で広いテラス(Dフェースの頭に続く斜面)に出て終了(10:00前か)。フラットソールを脱いで登山靴に。Cフェースは、コンディション(快晴)の問題もあって、以前に登ったAフェースと比べても、ずっと容易に感じられる。すっきりしたルートで、高度感もあって楽しい。しかし、緩傾斜なので浮き石が多く、混雑時には落石が怖そう。
 まだ早い時刻なので、稜線縦走路の偵察。Dフェースの頭に登り、ここでザックをデポ。急な登山道を下って(歩ける)、少し登り返すとEフェースの頭で、ここまでが6峰。この先も歩けるが、懸垂のほうが楽そうなので、ハイキングはここまでとして、Dフェースの頭に戻る。
 下山は、5・6のコルに向かう踏み跡をたどるだけだが、重荷で歩くにはやや急なので、2ピッチほど懸垂下降。深いクレバスだらけの雪渓の上に降りると動けなくなるので、アプローチのときと同じように、クレバスの底に降りて、岩体との間の狭い隙間を通り抜けて、長次郎谷に戻る。その後、3hほどかけて、剣沢のテントに。(途中、「熊の岩でテント」とする数パーティーとすれ違う。翌日は、混雑しそう。)

 7/17(日) テントを撤収し、5:00出発。2hちょっとで室堂に着いてバスに乗る。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・アイスバイル)



前穂北尾根(2011.6.4-6.5)

 無雪期には何度も通ったコースだが、残雪期には機会がなかったので、梅雨の合間に単独で。

 6/4(土) 5:00過ぎに上高地から歩き始める。この日は、横尾・涸沢経由で、5・6のコルまでの予定なので、少しゆっくりしたペース。涸沢から先はトレースがなかったが、13:00頃に5・6のコルに到着すると、若い男性2人のパーティーがテントの準備中。慶応尾根上半から北尾根8峰経由で来たとのこと。筆者もテントを広げる。コル直下までは雪がつながっているが、コルは露出している。

 6/5(日) 2人パーティーは未明の4:00頃に出発するが(意表をつく早出・・どこまで行くつもりか?)、筆者は1.5hほど遅れて、完全に明るくなってから出発(どうせ上高地まで!)。5峰の稜線はほとんど露出しているので、アイゼンなしで歩く。しかし、早朝にやや強い雨で岩がぬれる(その後にやむが、霧雨状のガスで視界がなく、岩も乾かない)。極端に難しいわけではないが、余裕をなくしているのがわかる(難しそうなラインを試す気にならない)。
 4峰手前のコルには雪が残っているので、アイゼン装着。4峰の上部は奥又側からだが、これは雪面歩きで、無雪期より容易。3峰は最初のピッチがアイゼンなので、ロープを省略できない。その後も、積雪期装備プラス水の重荷と乾かない岩で、思い切って登れず、何回かロープを出し、やや時間がかかる。それでも、ほぼ正午に前穂山頂に着く(後続パーティーなし)。
 雪渓状態が微妙な時期。下山路は、奥明神沢か重太郎新道か迷ったが、奥明神沢の雪渓が切れていると面倒になるので、重太郎新道を選ぶ。地形が複雑で夏道を見失うが、適当に雪渓を歩いていると紀美子平に。樹林帯に入ってからはルートは明瞭だが、その後も何度か急な雪渓を通過する。アイゼンの着脱で時間がかかるが、順調に高度を下げる。しかし、重太郎新道の最下部、というより、重太郎新道を下りきった岳沢の底部、雪に覆われた草つき斜面で事故。岳沢小屋まであと数分の場所。傾斜も緩く、滑落の心配もないと考えて、ノーマークだったが、ここで転倒してしまう。
 雪面で止める余裕のないまま、すぐ下の岩(落石)と潅木のある草つき斜面に頭から突っ込む。頭と額を切ったらしく、少し激しい出血(血が顔面を滴下するのがわかるほど)。岳沢小屋で水を使わせてもらい、顔を洗う。小屋のN氏とK氏には、綿布とタオルで、止血していただく。そして、上高地に向けて歩き出すと、N氏が追いついてきて、ザック(25kgほどと思う)を上高地まで持っていただく。(沢渡から兵庫県の自宅まで運転して帰宅。その翌日に医者に診せると、「うまく止血している」とのこと。今から考えるとN氏は筆者の荷物を運ぶために、わざわざ上高地まで同行いただいたらしい。本当に感謝。)
 筆者にとっては、10年以上前に、秋の至仏山(尾瀬)の下山中に木道で足を滑らせて以来の加療を要するケガ。最後にザックを持ってもらうなど、ちょっと「自力で」登ったとは言えない行程となる(至仏山のときはYS氏らにご迷惑を・・反省)。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・アイスバイル)



吉田口馬返しから富士山(2011.5.22)

 震災のあと、仕事の都合で引越しさわぎとなって、ほとんど登っていない。5月連休(5.3-)には、2人パーティーで北鎌尾根を狙うが、北鎌沢のコルでビバーク中に強風。そのまま撤退という体たらく。結局、5月末までに山頂を踏んだのは、富士山だけ。

 5/22(日) スバルラインも開通しているらしいが、単独ハイキングのために、高い通行料を払う気にもならず、馬返しから歩くことにする。天気予報では午後から雨。午前中の下山を期して、2:30に出発。5合目下の樹林帯で明るくなる。佐藤小屋には宿泊客がいるらしい。7合目の小屋密集地帯から雪を踏む。数パーティーが登っているが、大半はスキーかスノーボード持参(吉田大沢からの滑降か)で、空身で登っているのは、筆者と少し先行している10人ほどのガイドパーティーだけ。
 8合目付近からやや強い風。厳冬期と比べると問題にならないが、それでも、ときどきあおられる。ガイドパーティーは時間切れなのか、途中撤退らしい。10:00前に山頂着。予想より時間がかかっている。天候が不安で(午後から雨!)、視界もないので、剣ヶ峰をあきらめて、久須志神社の前から下山開始(休憩なし)。
 ほぼ夏道の下りルートをたどりつつ下山。途中から上りルートにトラバースする。12:00頃、佐藤小屋を通過(宿泊客が出発したのか、小屋は閉まっていた)、13:30に馬返し着。到着直後から強い雨。
 しばらく、山から遠ざかっていたためか、このルートに11hもかかり、体力不足が痛感される。(単独、アイゼン・ピッケル)



赤岳主稜(2011.3.5-3.6)

 2人パーティーで、八ヶ岳の赤岳主稜の偵察(2人とも初見)。ビレーヤーがいれば、ピッチ数の多い人気ルート(ソロだと時間的に難しい)も試みられる。前日までの冬型が緩むが、風が強い(快晴)。

 3/5(土) 5:30過ぎに美濃戸口を出発。15分ほど歩くとすぐに明るくなる。足元は締まった雪(氷結していない)。行者小屋の前でハーネスとアイゼンを装着して、文三郎道を登る。主稜に取り付いているのは、3人パーティーと2人パーティー。筆者らは3番目らしい。直前の2人パーティーが登り始めるまで、しばらく待機してから、文三郎道を離れ、雪面をトラバースして主稜取り付きのチムニーへ(たぶん10:30頃)。
 1P目、チョックストーンのあるチムニー。筆者のリードで取り付く。雪が多いので、高い位置から離陸できるのはよいが、ホールドが雪に埋まっているらしい。少し苦労して、チョックストーンに体を乗り上げる。そのまま、アイゼンを効かせて登ると、ハンガーボルトの固め打ちがあって、ピッチ終了(たぶん20mほど)。2P目の途中からは、露岩が少し混じる程度の、歩きやすい雪稜に。この先、しばらくツルベで登る(ピッケルで支点を即製できる雪ではないので、コンテは・・)。ハンガーボルトを見つけるごとに、短めにピッチを切っていると、5P目で上部岩壁の直下。このあたりまでは、山体の陰なので、風も穏やかで温かい。後続も2パーティーほどいるが、1ピッチ以上離れている。
 次の6P目は、偶数ピッチで筆者がフォローの順番だが、譲られたので、ありがたくリード。1.5mほどのギャップに這い上がり、岩場を20mほどトラバース気味に斜上してから、3mほどの垂壁。その抜け口の狭いチムニーを抜けて、さらに10mほど雪面を歩いて・・と、ちょっと長いピッチ。難しいわけではないが、コールも届かず、ロープの流れも悪い。チムニーの途中でロープが動かなくなると墜落必至なので、安易に離陸できない。手間取って少し時間がかかる。このピッチの終了点で、次のピッチのビレー中に、後続パーティーのリードが上がってきたので、長めのスリングを使って、支点を共有する。
 上部岩壁を抜けると、急に風が強くなる。容易な雪面だが、やや傾斜が強いので、この先2ピッチ、ロープをつけて登り、登山道の少し下でロープをたたむ(16:30頃)。前後各2パーティーだが、取り付きで少し待機したほかは、支点の順番待ちもなく、スムースに通過できたはず・・だが、なぜか6hもかかっている。コールが届かないだけでも、大きな時間のロスなので、合図などを決めておかなければならないと反省する。強風を避けるため、山頂小屋の前に走りこんで、少し休憩(大声を出し続けたこともあって、喉がからから)。明るいうちに安全地帯に降りられるのは確実だが、少し疲れたので、天望荘泊とする。

 3/6(日) 朝食抜き、6:30出発で地蔵尾根から下山。強風でトレースの消えた地蔵尾根上部は、ミニ雪庇つきの雪稜で、前日の主稜より楽しめそうな場所もある。11:00頃、美濃戸口着。(2人、ロープ9mmx50m他、アイゼン・ピッケル)



御殿場口から富士山(2011.2.19)

 今冬は天候不順が多く、年末の燕山荘ハイキング(2010.12.25-26、この日に登ったのは筆者だけだったらしい)のほかは、赤岳天望荘の忘年宴会(2010.12.31-2011.1.1、ついでに横岳・硫黄岳へのミニ縦走)だけ。あとは下手なスキー・・といっても、ショートターンの練習をゲレンデで繰り返すだけ。すぐに飽きる。ようやく、低気圧が南岸を通過したあと、高気圧が目立つ気圧配置になったので、富士山へ。吉田口馬返しは下部の樹林帯が疲れるので、前年(2010.1.30)と同じ御殿場口からとする。

 2/19(土) 太郎坊トンネル先の空地に駐車。仮眠していると、3台ほど到着し、3:00過ぎから数人が先行。筆者も4:30頃に出発する。満月でライト不要。太郎坊付近でも大量の雪が残っているが、前日の雨で発生したらしいミニ土石流の跡もある。大石茶屋から少し進んだ場所でアイゼンを装着する。明るくなると、少し強い風が吹くが、傾斜の緩い場所なので、恐怖心を感じない。天候はよいが、下は雲海で、雲は西から東に流れている。
 八合目の下はカチカチに氷結(たぶん降雨によるクラスト)。ピッケルも歯が立たない。その上部、夏道の長田尾根横断点付近から先、大弛は、夏道が隠れるほどの雪だが、長田尾根より風が弱いはず。渦巻いて方向の定まらない風に注意しながら、吹きだまりの軟雪を選んで、低い姿勢で慎重に進む。13:00前に御殿場口頂上。強風の中を剣ヶ峰へ(なぜかトレースがない)。
 やや時刻が遅いので、急いで下山。八合目付近のクラスト帯を過ぎてやっと安心。下山時に先行者は2人(他の2人ほどは、別ルートかそれとも途中から下山らしい)。17:00過ぎに駐車場所に戻る。
 途中、耐風姿勢と中腰のまま前進を繰り返したため、体力が奪われ、非常に時間がかかる(登り7.5h、下り5h・・)。測候所通勤用の鉄柵は、前年まで下部に残っていたが、今年は剣ヶ峰直下を除き、すべて撤去済。(単独、テント装備・・使わなかった、アイゼン・ピッケル)


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